副鼻腔浸潤性アスペルギルス症による眼窩先端症候群にて視力障害をきたした症例

疾病名
副鼻腔浸潤性アスペルギルス症眼窩先端症候群関節リウマチ

キーワード
副鼻腔浸潤性真菌症眼窩先端症候群視力障害関節リウマチ

年齢
80歳代

性別
女性

主訴
右眼周囲の疼痛右眼の視力障害

現病歴
1ヶ月前からの右眼周囲の疼痛と右鼻汁あり近医耳鼻科にて治療うけるも改善が乏しく、レントゲン上右篩骨洞炎が疑われるため2/21当院紹介受診。

既往歴
関節リウマチ(ダイフェン、プレドニゾロン4mg、タクロリムス2mg、アクテムラ皮下注)

診察所見
経鼻内視鏡:右鼻粘膜の軽度腫脹のみで膿性分泌物なし

検査結果
初診時CT:右後部篩骨洞から右眼窩内にかけて軟部陰影を認め、一部石灰化所見を認めた。右内直筋の腫脹あり。(図1〜3)

検査結果
項目名 単位
CRP 0.01 mg/dL
尿素窒素(UN) 35 mg/dL
クレアチニン(CRE) 1.26 mg/dL
Na 138 mEq/L
5.4 mEq/L
eGFR 31.2 mL/min/1.73m^2
ヘモグロビン量(Hb) 12.0 g/dL
血小板数(Plt) 17.7 ×10^4/μL
好酸球 0.3 %
好中球 78.2 %
リンパ球 17.6 %
単球 3.6 %

臨床経過
初診時に眼科コンサルトし視力は矯正視力で(0.9)/(0.3)。右眼の疼痛は緑内障による症状の可能性も否定できないとの回答。
検査上は明らかな視力障害を来していないものの、悪化により出現してくる可能性が高いため、なるべく早い手術枠を確保し3/3手術予定となった。
3/2に入院。入院時にMRIを撮像。(図4、5)
3/3に全身麻酔下に手術を実施。第三基板の層より病変あり。軟の嚢胞状の所見。周囲の篩骨洞隔壁を可及的に除去し、頭蓋底からも剥離。眼窩内側壁との境界が不明瞭であり、一塊での全摘は困難と考えた。嚢胞状と考えた病変を穿破して、病理標本として可及的に採取。
止血目的にベスキチンによるパッキングを行い、3/5にガーゼ抜去。右眼の見え方は自覚的には術前より変化なし。疼痛の改善は認めたが、少し見えにくい感じは変わりなし。術後の創部の状態は良好であったため、3/9にいったん自宅退院。
3/17に外来受診。視力の悪化あり、近医で0.2~0.3と測定されたと訴えあり。病理検査結果は浸潤性アスペルギルス症の診断。この時点で再度眼科にコンサルトし視力を測定して0.2と悪化あり。同日より内服でボリコナゾール開始。(50mg4T分2)
3/24外来受診時ボリコナゾール血中濃度2.01μg/mL。疼痛コントロール良好。鼻内の状態問題なし。
3/31外来受診。状態改善なし。創部は問題なし。ボリコナゾール血中濃度0.56
4/14受診時、経口摂取不良と脱水を認めるため、同日より入院。ボリコナゾール血中濃度1.80。ボリコナゾールはDIVに変更し、280mg/dayで投与。4/15に再度MRI撮像。(図6、7)
MRIではまだmassiveな所見を認めるため病変の減量目的に4/20再度手術を予定した。
4/18 β-Dグルカン 23
4/20局所麻酔下に手術実施。前回篩骨洞は開放されていたため、残存する病変を可及的に除去した。視神経や内直筋の明らかな損傷なし。
4/21疼痛の改善あり。ボリコナゾールは継続。
疼痛は消失し、創部の状態も良好なため4/28よりボリコナゾールを内服に切り替え。(50mg*6T分2)
4/28に退院。
5/9ボリコナゾール血中濃度3.65。疼痛なし。見え方悪化なし。
5/16ボリコナゾール血中濃度3.20。疼痛なし。見え方は改善の自覚あり。
5/23ボリコナゾール血中濃度2.43
6/6ボリコナゾール血中濃度4.29
6/27ボリコナゾール血中濃度4.48。症状悪化なし。ボリコナゾール終了。
7/25症状の悪化なく、鼻内所見も良好であり、終診。

図表

図1

図2

図3

図4:T1

図5:T2

図6:T1

図7:T2

一言
関節リウマチに対して抗リウマチ薬を使用していることが浸潤性真菌症への進展に関連していると考えられたが、関節炎症状は比較的強いため抗リウマチ薬を継続しての治療となった。
初診時に明らかな客観的な視力障害を認めなかったため緊急手術としなかったが、画像所見からはもう少し早期の手術が望ましかった可能性がある。
術中所見からは炎症より腫瘍の存在が考慮されたが、術後1週間経過して病理検査結果が出た段階で浸潤性アスペルギルス症の確定診断となったため、抗真菌薬の開始が遅くなった。
術後の抗真菌薬は経口摂取が安定しないこともあり血中濃度が推奨値の1.0~2.0μg/mL以上を維持できず病勢の抑制ができなかったと考える。
最終的には視力がある程度改善したものの、この様なケースは想定できないことでもないため、もう少し後手に回らずに済めばよかったと考える。


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