二期目手術時に頭蓋内合併症を来した真珠腫性中耳炎症例

疾病名
真珠腫性中耳炎

キーワード
真珠腫性中耳炎頭蓋内合併症鼓室形成術乳突削開術失語症

年齢

性別
女性

主訴
難聴

現病歴
X年7月10日近医耳鼻科より左真珠腫性中耳炎の疑いにて当院を紹介受診。診察およびCT所見より左真珠腫性中耳炎と診断。治療目的にX年9月29日に左鼓室形成術、乳突削開術の予定となった。

診察所見
左鼓膜弛緩部に陥凹と少量のdebris貯留あり(図1)

検査結果
PTA:4分法 右12.5/左43.8 骨導左右差ほぼなし (図2)
CT:左上鼓室に軟部陰影あり 乳突洞の発育は不良 顔面神経や半規管への進展なし (図3)

臨床経過
真珠腫の進展が高度であり、一期的手術では再発のリスクが高いと判断し、二期的手術の方針とした。
X年9月29日に左鼓室形成術、乳突削開術実施。真珠腫は乳突洞抹消まで進展し、耳小骨の固着を認めたため、真珠腫の遺残リスクを低下させるために真珠腫の摘出とともに耳小骨(ツチ骨頭、キヌタ骨)も摘出した。真珠腫の摘出のため外耳道の後壁および上壁方向の側頭骨を広範囲に削開し、一部で頭蓋底の骨欠損を生じた。硬膜の損傷は認めなかった。二期的手術の一期目の手術のため、癒着を防止し中耳腔を形成する目的にシリコンプレートを乳突洞から鼓室にかけて留置した。真珠腫を摘出することで形成された鼓膜の欠損を側頭筋膜にて再建し、鼓膜を形成し手術は終了とした。術後10日で耳内ガーゼを抜去。
X年10月12日に退院。
退院後は1〜2ヶ月に一回外来にて経過観察し、特に問題なし。X+1年8月10日に二期目の手術を実施する予定となった。
X+1年7月12日術前検査として撮影したCTでは頭蓋底の欠損とそれに連続する乳突洞内の球形の軟部陰影を認めた。(図4)
一期目の手術で頭蓋底欠損を生じたことと、真珠腫が乳突洞末梢まで進展していたことを考慮し、この部位での遺残再発と考えた。
X+1年8月10日二期目の手術(左鼓室形成術、乳突削開術)を実施。一期目の手術で留置したシリコンプレートを乳突洞に認めたためこれを摘出。シリコンプレートの周囲には結合組織を認めたため、これを除去すると上方の頭蓋底方向に嚢胞様の隆起を認めた。嚢胞壁は暗紫色で非拍動性であり、真珠腫の遺残再発としては典型的な所見ではなく、真珠腫などの中耳炎症性疾患の術後に認められるコレステリン嚢胞が考えられる所見であった。病変のオリエンテーションを確認するために周囲の骨を削開して確認するも、嚢胞様病変の膨隆が強く視野を得ることが困難であったため、嚢胞壁を鋭的に穿破した。内腔からは白色乾酪状の物質が流出。コレステリン嚢胞としても非典型的な所見であったため、さらに周囲の骨を削開し、オリエンテーションを確認したが、嚢胞とした場合の頭側方向の壁の存在を示唆する所見が得られなかった。嚢胞内の確認のため内容物を吸引していると徐々に拍動が強くなってきたため、脳実質の可能性を考慮し、脳神経外科医師にコンサルト。顕微鏡モニター所見からは同医師より脳実質に矛盾しないと見解を得た。この時点で家族に状況を説明し、硬膜の再建と脳実質欠損部の再建目的に側頭筋と左鼠径部皮下脂肪組織の採取を行うことに同意を得た。筋膜付き側頭筋の採取と鼠径部皮下脂肪組織の採取を実施し、脳神経外科医師により脂肪組織の脳実質欠損部への充填と側頭筋を用いた硬膜の縫合閉鎖を実施した。これらの操作が終了してから耳介軟骨の採取とそれによる伝音再建(Ⅲi再建)を実施して、手術を終了した。術後にCT撮影し、出血など認めないことを確認した。(図5)
術後の状態は通常の鼓室形成術後の症例と変わりなく経過。術後10日で耳内ガーゼを抜去。
X+1年8月23日に退院。
退院後は1ヶ月から2ヶ月に一回程度の通院の方針となった。耳内の状態は良好で、脳実質欠損に関連する症状の訴えもなし。
X+2年7月25日の定期通院の際に、言葉が頭に浮かんでも発語できないとの旨の訴えがあったため、脳神経内科にコンサルト。
X+2年8月10日脳神経内科初診。診察および検査(MRI、脳波検査)所見から手術による脳実質欠損による失語症と判断された。脳神経内科より言語リハビリを提案され、リハビリ専門病院を紹介された。
その後本人曰く、生活に大きな支障がないためリハビリには通院していないことを確認。
術後1年以上経過した時点での聴力検査結果は4分法で右12.5/左28.8で術前より改善を認めた。1000Hzより高音では左右差が小さいが低音の閾値が40dB程度であり、充填組織の影響が考慮される。(図6)

図表

図1 弛緩部の陥凹

図2

図3:冠状断 左上鼓室の軟部陰影 乳突洞の発育は不良 頭蓋底の骨は菲薄化

図4:(上:軸位断、下:冠状断) 頭蓋底の骨欠損とそれに接する球状の軟部陰影

図5:充填した脂肪組織が脳実質内に存在。

図6


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